← ブログ
1 min read

記憶術の決定版 ― 記憶の宮殿・語呂合わせ・連想法まで

家の部屋を頭の中で歩きながら、家具の上に置いた鮮やかなイメージを思い出していく学生。記憶の宮殿の手法を表したイラスト

シャッフルしたトランプ52枚をすらすら言い当てたり、円周率を100桁暗唱したり。そんな芸当を見ると、生まれつきの才能だと思ってしまいがちです。ところが、ほぼ例外なくそうではありません。その裏側で働いているのは、誰でも身につけられる記憶術です。覚えにくい情報を、脳が楽にしまえる形へと意図的に変換する技のことを指します。なかでも最も有名なのが、記憶の宮殿(場所法とも呼ばれます)です。古代から受け継がれてきた技法がいまなお通用するのは、それが人間の記憶の仕組みそのものに沿っているからにほかなりません。

この記事では、知っておく価値のある記憶術をひととおり取り上げます。記憶の宮殿の作り方を一歩ずつたどり、続いて語呂合わせ、連想法・ストーリー法、チャンキング、視覚化へと進んでいきます。そのうえで、それぞれの限界についても正直にお伝えします。記憶術は特定の内容を覚えるうえで強力な道具ですが、あくまで練習を要する「技術」であり、想起練習(アクティブリコール)や間隔反復の「代わり」になるものではありません。これらと「組み合わせて使う」ときにこそ、最も力を発揮します。

記憶術がなぜ効くのか

人間の脳は、抽象的なリストを覚えるようには進化していません。脳がほんとうに得意とするのは、場所映像動き、そして物語です。「3週間前の火曜、夕食に何を食べた?」と尋ねればたいてい答えに詰まりますが、「子どもの頃に住んでいた家を説明して」と頼めば、部屋から部屋へとすらすら案内できる人がほとんどでしょう。空間記憶や視覚記憶は容量が大きく、長持ちします。一方、抽象的な記憶は容量が小さく、すぐにこぼれ落ちていきます。

これから紹介する技法は、突き詰めればすべて抽象的な情報を、脳が好む形へ変換するための仕掛けです。鮮やかなイメージは、ただの言葉よりずっと思い出しやすい。場所は、そのイメージに「住所」を与えてくれる。物語は、項目どうしを鎖のようにつなぎ、ひとつ思い出せば次が芋づる式に引き出されるようにしてくれる。これは俗流の心理学のたぐいではありません。古代ギリシャ・ローマの弁論家たちが、メモも見ずに何時間もの演説をこなすために使っていた原理であり、場所法がこれほど長く生き延びてきた理由でもあります。

記憶の宮殿(場所法)

記憶の宮殿は、ここで紹介するなかでも単独で最も強力な技法であり、しっかり習得する価値が一番ある手法です。考え方はいたってシンプル。自分が隅々まで知り尽くした場所――自宅や、学校までの通学路など――を選び、そのルート上の決まった地点に、覚えたいものを頭の中で「置いて」いきます。思い出すときは、頭の中でそのルートをたどり、置いた項目を順番に「拾い上げて」いくだけです。

記憶の宮殿の作り方、ステップごとに

  1. よく知っている場所を選ぶ。 王道は自宅です。意識しなくても情景がありありと浮かぶからです。狭いワンルームでもかまいません。大事なのは広さではなくルートです。
  2. そこを通るルートを決める。 一貫した道筋を定めましょう――玄関、コート掛け、キッチンの調理台、コンロ、冷蔵庫、といった具合に。そして毎回、同じ向きにたどります。ルートの順序が、そのまま情報の順序を保ってくれます。
  3. はっきりした「拠点(ロキ)」を選ぶ。 ルート沿いに、見分けのつく地点を5〜10か所決めます。それぞれの拠点に、ひとつずつ項目を割り当てましょう。
  4. 各拠点に鮮やかなイメージを置く。 覚えたいものを、印象的で大げさな心象風景に変え、拠点に据えます。動かす、ばかばかしくする、騒々しくする――おとなしく無難なイメージほど、すぐ忘れてしまいます。
  5. ルートを歩いて思い出す。 スタート地点から頭の中で歩き出します。各拠点があなたにイメージを手渡し、そのイメージが項目を思い出させてくれます。

実例:買い物リスト

たとえば、牛乳・バナナ・卵・電球・コーヒーを覚えたいとします。自宅に足を踏み入れ、こんなふうに置いていきましょう。

リストを思い出すには、ルートをたどるだけ。玄関、コート掛け、調理台、コンロ、冷蔵庫。ばかばかしい光景のひとつひとつが、項目を順番どおりにパッとよみがえらせてくれます。慣れれば数秒で組み立てられ、思い出すのも確実です。学生がこの手法を活かすのは、放っておくと覚えづらい「順序のある内容」――手順の流れ、歴史の年表、スピーチの要点――です。順序と網羅性が問われる場面でこそ、記憶の宮殿は真価を発揮します。

語呂合わせと頭文字法

**語呂合わせ(ニーモニック)**とは、覚えにくい情報を扱いやすい「取っ手」に詰め替える工夫全般を指し、頭文字をつないだ覚え方はその代表格です。たとえば「水兵リーベ僕の船」は、元素の並び――水素・ヘリウム・リチウム・ベリリウム・ホウ素……――をひと続きの言葉にぎゅっと圧縮しています。英語圏では「My Very Educated Mother Just Served Us Noodles」が、太陽から外側へ並ぶ惑星の順序を表す定番です。

使い方: リストの頭文字をとり、ひとつの言葉や、短くてばかばかしい一文に仕立てます。荒唐無稽で、自分にとって身近な文ほど、よく頭に残ります。語呂合わせは、すぐに引き出したくてずっと忘れたくない「短くて固定されたリスト」――公式、分類、つづりのルールなど――にうってつけです。ただし限界もあります。覚えているのはあくまで手がかりであって、理解ではない、という点です。語呂合わせは元素の並び順を思い出させてくれても、なぜその順序なのかまでは教えてくれません。一字一句覚える価値のあるものを固定するために使い、理解が必要なものには本物の学習を充てましょう。

連想法とストーリー法

**連想法(リンク法)**は、各項目を鮮やかなイメージで次の項目とつなぎ、ひとつの鎖にしていく手法です。ストーリー法はさらに一歩進めて、それらをひと続きの物語に織り上げます。どちらも、同じ性質を利用しています――ふたつのイメージがいったん結びつけば、最初のものを思い出した拍子に、次のものまで引きずり出される、というわけです。

犬・帽子・りんご・車を覚えるなら、4つの単語を別々に暗記するのではなく、ひとつにつなげてしまいます。背の高い帽子をかぶったが、巨大なりんごにかぶりつき、そのまま小さなに乗り込んで走り去る。こうすれば、4つの事実ではなく1本の物語になります。最初の糸を引っ張れば、残りがするすると手繰り寄せられてくるのです。これは本格的な記憶の宮殿を組み立てるよりも手早く身につき、短いリストや単語のペアにぴったりです。一方、長い内容や、ずっと覚えておきたい内容には、記憶の宮殿のほうが向いています。固定された場所があるおかげで、鎖が途中で切れてしまうのを防げるからです。

チャンキング

チャンキングは、細かい情報をまとめて意味のある大きなかたまりにすることで、ワーキングメモリが同時に抱える数を減らす手法です。4 7 1 9 2 5 8 3 6という並びは、バラバラの9項目です。ところが、これを471 925 836とまとめれば、たった3項目になります。電話番号やカード番号がブロックごとに区切って書かれているのは、まさにこの理屈によるものです。

長い数字・文字・手順の列に出くわしたら、3つか4つのかたまりに区切り、リズムに乗せて覚えましょう。数字の中に潜む西暦や、何かの言葉になる頭文字など、手がかりになる「意味」を探すのも有効です。チャンキングは、多くの暗記を陰で支える地味な働き者で、ここで紹介した他のすべての技法とも組み合わせられます。詳しくは、ワーキングメモリを鍛える方法のガイドで掘り下げています。

視覚化とエラボレーション

これまで紹介したすべての技法の土台には、ひとつの原動力が据わっています。それが視覚化(言葉を映像に変えること)とエラボレーション(新しい情報を、すでに知っていることと結びつけること)です。これらは独立した手法というより、他の技法を成り立たせる「土台のスキル」だと言えます。

使い方: 抽象的なものに出会ったら、自分に2つ問いかけてみましょう。これはどんな見た目だろう?――たとえ奇妙でも、具体的なイメージを無理やりにでも思い描く。これは何を連想させるだろう?――新しい事実を、すでに知っている事実にひっかける。すでに知っている3つのものと結びついた事実には、3本のロープがかかっています。一方、たったひとつで宙に浮いている事実には、ロープが1本もありません。五感・感情・荒唐無稽さを盛り込むほど、記憶は強く根を張ります。「牛乳の大津波」は頭に残るのに、ただの「牛乳」という言葉は残らない――その理由がここにあるのです。

記憶術の「限界」と、組み合わせるべきもの

記憶術は強力ですが、得意な領域ははっきりしています。それは特定の内容を、特定の順序で覚えるために作られている、という点です。リスト、手順、語彙、一字一句覚えたい事実などがそれにあたります。しかも記憶術は「技術」ですから、最初に作る記憶の宮殿は遅くてぎこちなく感じられても、10回目には速く、ほとんど無意識にこなせるようになっていきます。最初からすらすらできると期待してしまうことこそ、途中で投げ出す一番の近道です。

また記憶術は、エビデンスが最も強い2つの学習法の代わりにはなりません。

最善のやり方は、これらを組み合わせることです。記憶術で内容を鮮やかに符号化(エンコード)し、想起と間隔反復でそれを定着させる。記憶の宮殿を組み立てたら、数日かけて何度も、記憶だけを頼りにそのルートを歩く練習をしましょう。この組み合わせ――力強い符号化と、繰り返しの想起――こそが、気の利いた小手先の技を、長く残る知識へと変えてくれます。この一連の流れをまるごと組み立てる方法は、試験勉強のやり方のガイドにまとめています。

記憶術が頼りにする「生の記憶力」を鍛える

ここで紹介した技法はどれも、根っこにある同じ能力に支えられています。それが生の視覚記憶とワーキングメモリ――イメージや格子、ルートを頭の中に保ちながら、それを自在に操る力です。記憶の宮殿は、ひとつの場所に鮮やかな情景を保ち続けることを求めます。連想法は、イメージの鎖を保ち続けることを求めます。この土台となる記憶力が強いほど、技法そのものに振り向けられる余裕が大きくなるのです。

そこで脳トレアプリの出番です。QZBrainは、Flashcards World SLが提供する無料アプリで、iPhone・Android・ウェブのどれでも使え、まさにこの生のスキルを鍛えます。その**記憶ゲームは時間無制限(untimed)**なので、時計に追い立てられる心配はありません。

Daily Workout(デイリー・ワークアウト)は、ワンタップで始められ、5つのゲームを約5分のセッションにまとめて、重複なしで出題します。さらにNeuroIndex(ニューロインデックス)という1本のスコア(100〜999)と30日間の推移グラフが、上達ぶりを一目で見せてくれます。QZBrainは完全にオフラインで動作し、データを一切収集せず、レーティングは4+。任意のQZBrain Plusアップグレードも用意されていますが、中核となるトレーニングは無料で使えます。

ここでひとつ、正直にお伝えしておくべき注意点があります。この種のトレーニングは、練習した特定のスキルとそれに近いスキルを確かに伸ばしてくれますが、IQを上げたり、頭そのものを全般的に良くしたりするわけではありません。あくまで視覚記憶とワーキングメモリを研ぎ澄ましておく道具と位置づけ、磨いた力を上で紹介した技法に活かす――そんな使い方がおすすめです。この点のエビデンスについては、脳トレゲームは本当に効果があるのかで詳しく掘り下げています。

記憶術を支える、その土台の記憶力を鍛えよう。無料で、1日たった5分ほど。

よくある質問

記憶の宮殿とは何ですか?

記憶の宮殿は、場所法とも呼ばれ、よく知っている場所――たいていは自分の家――を通るルート上の決まった地点に、鮮やかなイメージを心の中で置いていくことで、情報を順番どおりに覚える技法です。思い出すときは、頭の中でそのルートを歩き、各イメージを順番に拾い上げていきます。脳は抽象的な事実よりも、場所や映像をはるかによく記憶するため効果が高く、古代ギリシャ・ローマの時代から使われ続けてきました。

記憶術は本当に効果がありますか?

はい。リスト、手順、語彙、スピーチといった特定の内容を覚えるうえでは、十分に確立され、効果も認められています。ただし、ひとつ覚えておきたいのは、記憶術は切り替えひとつでオンになるスイッチではなく「技術」だということ。最初の試みは遅く感じられ、練習を重ねて初めて速く確実になっていきます。さらに、アクティブリコールと間隔反復を組み合わせたときにこそ最も効きます。符号化した内容を長期記憶に留めておいてくれるのが、まさにこの2つだからです。

勉強にいちばん向いている記憶術はどれですか?

覚える内容によります。短くて固定されたリストや公式には、語呂合わせや頭文字法が最も手っ取り早い手段です。順序や網羅性が問われる内容――手順の流れ、年表、スピーチの要点――には、記憶の宮殿が最強の選択肢になります。長い数字の列なら、チャンキングが自然な道具です。どの技法で符号化するにせよ、最後は読み返すのではなく、アクティブリコールと間隔反復でしっかり固定しましょう。

記憶の宮殿の習得にはどれくらいかかりますか?

とりあえず使える宮殿なら、ひと息で組み立てられ、その場で短いリストを覚えられます。一方、速くなめらかに――数秒で宮殿を作り、苦もなく鮮やかなイメージを置けるようになる――には、たいてい数週間の継続が必要です。他のあらゆるスキルと同じように考えればよく、1回の長い練習より、短い練習をこまめに重ねるほうが効きます。

同じ記憶の宮殿は使い回せますか?

はい。古いイメージは数日もすれば自然に薄れ、ルートが次の情報のために空いていきます。多くの人は、教科ごとに複数の宮殿を用意し、それぞれを繰り返し使い回しています。もし2組のイメージが互いに干渉し合うようなら、それはたいてい、練習の間隔をもっと空けるか、2つ目のリストには別の馴染みのある場所を使うべきだ、というサインです。

記憶術は理解の代わりになりますか?

いいえ。そして、これこそが最も大切な注意点です。記憶術が保持してくれるのは手がかりであって、理解そのものを築いてくれるわけではありません。語呂合わせは元素の並び順を手渡してくれても、なぜその順序になるのかまでは教えてくれません。一字一句覚える価値のあるものを暗記するためにこれらの手法を使い、理解して応用する必要があるものには本物の学習――説明する、解いてみる、考えを結びつける――を充てましょう。

今日、ひとつの技法を選んで始めよう

これらすべての手法を一度に使う必要はありません。覚えたい内容に合うものをひとつ選び――順序のあるリストなら記憶の宮殿、短い公式なら語呂合わせ、語彙ならストーリー法――今週さっそく、何か実際の内容に試してみてください。最初の試みはぎこちなく感じても、5回目には自然にこなせているはずです。そのうえで、読み返す代わりに、間隔をあけた何度かのセッションで記憶だけを頼りに思い出すことで、その成果を長持ちさせましょう。

そして、土台となる視覚記憶とワーキングメモリを研ぎ澄ましておきたいなら、QZBrainを試してみてください。無料で、プレッシャーもなく、1日5分のワークアウトをiOSAndroidウェブで楽しめます。さらに多くの戦略と、その裏づけとなる科学については、QZBrain脳トレハブをご覧ください。